小学校高学年になったら娘に読んでもらいたいと思う本がいくつかある。
- ナルニア国物語
- ゲド戦記
- 赤毛のアン
- 魔女の宅急便
- 風の谷のナウシカ(漫画だけれど)
等々。いずれも子供の時に読んだ本が中心である。
そこに最近、
上橋菜穂子の守り人シリーズが加わった。最近といっても読んだのは2019年でだいぶ前である。
https://www.kaiseisha.co.jp/special/moribito/
この年で忘れられないぐらい感動する児童書に出会うとは思わなかった。
主人公は、バルサという用心棒を生業とし、血塗られた人生を歩んできた女性である。全10巻のそれぞれに見せ場があるが、一番の好きな箇所は最終巻の「天と地の守り人」である。
戦場に赴き行方不明になった幼馴染を探しに行くバルサ。
瀕死の状態で発見される幼馴染。
彼の片腕はすでに腐っている状況だった。
皆が怖気づく中、バルサは腕を切り落とすことを決める。
「・・・あんたの腕を、切り落とす。」タンダの目から、涙があふれた。ふるえながら、かろうじて動く右手で、タンダはバルサの背に触れた。
まるで、なぐさめるように自分の背をさすっているその手を感じたとたん、バルサの目からも涙がこぼれおきた。歯をくいしばって、バルサは泣いた。
(中略)
(タンダの)腕をすっぱりと切りおとすや、バルサはためらうことなく、その切り口に自分の口をあて、歯で太い血管をかんでおさえると、手早く糸でかたくしばった。
そして、切り口全体に、焼いた短剣の刃をつけて止血し、刻んだ薬草をつけた布でぐるぐる巻いた。
それだけの治療をほどこすあいだ、バルサは眉ひとつうごかさなかった。
全10巻中戦いのシーンが続く。誰かを守るためには誰かを殺さなければならない。どんどん人が死んでいく。このまま、バルサは人を殺めながら生きていくのか、結末はどうなるのだろう。用心棒の彼女には救いようのない結末しかないのか。
タイトルの守り人はバルサのことを意味している、と私は思う。第1巻「精霊の守り人」から始まった物語。バルサの成長の物語というより、バルサに守られた人たちが成長していく物語である。どういう結末を迎えるのかハラハラしたけれど、最後にバルサがタンダを救ったとき、私は完全燃焼できた。タンダという力ではなく優しさでバルサを救ってきた男を守った時、バルサの生き方が報われた気がしたのだ。
そういえば同じように壮絶な物語の主人公であるナウシカは最後は皆の前から姿を消した。結婚もしなかったことも示唆された。読み終わった後、どことなく納得できなかったことを覚えている。「世界の秘密」を知ったことでこんなにも達観できるのだろうか。
ナウシカが辿らなかった道をバルサは選んだ。壮大な物語はバルサがタンダの待つ家に帰るところで終わる。血塗られた人生の果てが慈愛に満ちた温かな人間関係であることに胸がつまる思いがする。